左官一服噺 建物○旧日本郵船株式会社小樽支店(Former Nippon Yusen Kabushiki Kaisha Otaru Branch )71
重要文化財である旧日本郵船株式会社小樽支店は、明治37年着工し、同39年10月に落成しました。近世ヨーロッパ復興様式の石造2階建建築で、設計者が佐立七次郎、施工が地元の大工棟梁山口岩吉です。
設計者の佐立七次郎は、安政3年讃岐藩士の家に生まれました。現在の東大工学部の前身である工部大学校造家学科の第一期生で、同期に辰野金吾、片山東熊、曽禰達蔵の3人がいます。
卒業後、工部省、海軍省、逓信省を経て、明治30年頃より日本郵船の建築顧問となります。現存する作品としては日本水準原点標庫(東京憲政記念庭園内)があります。
一方施工者の大工棟梁が地元の山口岩吉で、左官が荒井萬平、奥村繁蔵でありました。彼の経歴の詳細は判明していません。
この建物は、昭和62年(1987)に復元改修工事が行われています。そのときに使用された漆喰材料は、岩手県の消石灰に鹿児島県の貝灰を主材料としています。砂は蟻谷産、銀山産で、海藻角叉が日高産でありました。
客溜まりの内装の壁漆喰は4回塗り替えられており、建築当時は灰墨を混入した、鼠漆喰が使用されていたとされています。貴賓室の天井は、浅黄漆喰が用いらていましたが、経年の汚れで2回程、胡粉と糊材でクリーム色に色上げ仕上げがされていました。
天井にある中心飾りの装飾は、6種類で、漆喰の型抜きでレリーフを作り、張り付けられています。石膏がまだ一般的に使用できない民間の建物は、漆喰で石膏の代用としました。
漆喰の型抜き工法は、江戸期から存在しており、落雁(らくがん)のの和菓子を作る応用としてよいと思います。その後の左官の装飾で、盛んに使用されるようになった、石膏との違いは、角部分の際だちと表層の厚さでは判断できます。
杉並の左官です。塗り替え、リフォームお待ちしています。電話03-3398-4335 http://s-kent.jp/contact/
投稿者プロフィール
最新の投稿
- 左官一服噺2023.08.15分かりやすい画像で観る、費用負担が少ない土蔵改修工事 その1
- 左官一服噺2023.08.15関東大震災後の建築様式 その2アール・デコ(装飾美術)
- 左官一服噺2023.08.11関東大震災後の建築様式 その1 同潤会
- 左官一服噺2022.07.20左官一服噺 落語にみる左官「竃幽霊(へっついゆうれい)