左官一服噺 様式○草庵茶室1(thatched hut tea-ceremony room)108
「埴生の宿」といえば万葉の時代以来のいぶせき住居の代名詞でありますが、土壁の民家を文学的に表現したものであります。その土壁の一種である荒壁仕立てや藁苆を表した民家の手法を数寄屋の中に逆輸入したものでもありあます。数寄屋の土壁が初めて日本壁の純粋な美しさといわれるようになります。
草庵茶室に見られる文化は、まさに日本文化の本性や日本人の精神性そのものに関わるものであります。そこで展開される造形の精神は、その後の日本民家建築に広く反映されました。逆に、草庵茶室の創始者たちは、その造形哲学を広く民衆たちの生活の中から学び、消化させたと云ってもよいと思います。
室の面積が小さくなればなるほど、室に座す人間の目と壁との距離は接近するばかりか、室の面積に対する壁面積の比率が増大します。壁自体の存在がますます目立つことになります。草庵茶室の創案者たちは、このことも意識に入れ、藁苆を壁の意匠に盛んに取り込んだと思います。例えば、土壁のなかに長めの藁などを積極的に入れ込んで仕上げ、従来の藁が「苆」としての機能的の働きをより、表現としての働きを重んじたものです。
紅染山鹿庵(こうせんざん、ろくあん)が元禄7年(1694)に著した「茶譜(ちゃふ)」には利休の座敷壁について「座中床ノ中マデ壁塗ニシテ、(室内および床の間の中まで壁が塗って合って)其壁の上塗土ニ(その壁の上塗りに)長スサト云テ三寸ホドニ藁ヲ切リ(長すさという10㎝ほどに切った藁を)巧ラセテ和テ土に塗コミ(巧みに土に塗り込んで)・・・・・」・「壁ニサビヲ仕ルト云テ(壁に錆を入れ込んで仕上げ)、黒クフスモルヤウニ見セ(黒くもやっとさせて見せる)・・・・」とあります。この荒壁仕立ての壁は、積極的に藁を活かし、長苆入れ、錆を混入している。このような仕上げは、それまでの建築になかった人工的な新しい美の構築が模索されたと云っていいと思います。
さらに、草庵茶室の壁は、二寸程の厚さで仕上げるため小舞竹にも工夫がされ真竹もしくは破竹を割り、薄くそいだ小舞竹が使用されています。
利休は荒壁をそのまま使用すると粗野になるため自然に産出する色土(いろつち)に砂と藁を混入して、土物壁を考案し、それを荒壁風に仕上げさせたのです。
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