左官一服噺  建築様式○松本の海鼠壁( Matsumoto’s sort of exterior wall tiling finish )103

松本地方の民家の海鼠壁.松本地方の民家は本棟造り、カイ屋、横屋(横長の造り)と呼ばれる造りが多い。写真は四半張りが施された横屋造りの民家で、蚕室に使用されていたかもしれない。海鼠壁のある蚕室は、現金収入の重要なもので「おかいこ様」の住まいである。

長野県松本市には、様々な海鼠壁が見られます。

  地元左官屋の噺では、「海鼠壁は鏝一丁で仕上げることが多い」といいます。松本の海鼠壁は亀甲模様、四半張り、七宝模様、馬乗り目地と変化に富んでいます。特に松本の土蔵は、各地への行き来が盛んになる幕末から明治、大正に作られました。そのため、八王子、甲府や遠く関西からの影響があったと思われます。左官の技術の原形をなすものは、松本城を維持する左官技術の存続あったことは、見逃せません。材料となる粘土は、“ネバツチ”と呼ばれ、石灰は塩尻や四賀村から供給されていました。

 海鼠壁の模様は、変化がありますが、基本工程は同一です。

①墨出し→②瓦張り→③瓦の竹釘打ち→④土の目詰め→⑤あたり竹釘打ち→⑥本漆喰塗り→⑦本漆喰瓦中塗り→⑧仕上げとなります。海鼠の形状模様は、建物様式、寸法、施主の好みで描きだします。

まず建物の中心にして半分に割り出すことが原則になります。海鼠の仕上げ幅は1寸(約3㌢)とすることが多のですが、決まりはありません。

 一般的な四半張りは、差し金の裏がねの対数を利用して、対角線を基準に墨出しすします。瓦が1尺(約30㌢)であれば、対角線の墨出しは、1尺4寸(約42㌢)となり、瓦の隙間間隔が約3分(約9㍉)となります。墨出しは、白い鉛筆を利用すると、墨が残らず、仕上げがきれいになります。四半張りでは、落ち着かない場合には馬乗り目地にします。

 七宝模様の仕上げ幅は、牛乳ビン、ビールビン、一升ビンの大きさを利用して円を描いて割り出します。瓦・建物寸法で決めることもあります。七宝模様の割り出しは、1㎝ほど、大きめにし、両端で5㎜ずつ切り込み、接点で1㎝重ね合わせることで、留めに空きができたりせず、逃げ場が作れます。

 現在、亀甲模様を製作するには、亀甲瓦がないので、漆黒のタイルを利用します。瓦の中心と決め、その中心から、ぶん回し(コンパス)で、円を描き、半径を基準として接点を出して、六角形を割り出します。小学校で習った作図法で、その亀甲模様を馬乗り模様にします。

仕上げ模様にかかわらず、海鼠壁の仕上げで重要なことは、基本的に同程度の気の合った手の二人もしくは一人で施工しないと、仕上げ精度が悪くなります。

杉並の左官です。塗り替え、リフォームお待ちしています。電話03-3398-4335    http://s-kent.jp/contact/

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