左官一服噺 部位○蔵戸前(くらとまえ)(godown door front )89
蔵の戸前は「蔵前」とも呼び土蔵を数える単位としていました。東京の蔵前の地名は、戸前が並び揃ったのが由来とされています。
土蔵は、耐火機能を持ちますが、火災時に開口部が最も弱点になる箇所でもありました。そのため扉・枠は、ともに塗籠として、扉を閉鎖したときに両者が完全に密閉して、空気を遮断しなければなりません。扉と扉を合わす箇所を『手先(てさき)』とも呼ばれています。扉を閉鎖した状態で手先を合わせることを『手合わせ』ともいいます。
手先の塗りつけに際しては、紙一枚を滑り込ませるぐらい精度が必要であります。また、土蔵の蔵戸前の観音扉は、非常時以外に開いているため、蔵戸前の裏側では、商家の店の看板として鏝絵などが装飾的に施されています。また、この部分を『鏡(かがみ)』といい、黒漆喰で磨き込みます。これは不審者が侵入することを、磨き上げた壁で監視する役目もします。
見世蔵を含めて土蔵の戸前の意匠・構造は、京・大阪と江戸とも大きな違いがみられません。常時開いているため、ぶつけて欠損することがないように、黒柿渋で塗った板で保護しています。
戸前の裏側には、裏白という塗り籠めした引き戸があります。裏白も普段は開いていますが、火災時に裏白と戸前を閉めて二重の扉とし、手先部分に目塗りをします。
また、裏白と同一の溝には、銅網を張った格子戸を設けていまます。格子戸は、日常、閉めて施錠をしておきます。この格子戸も閉めない場合には、高さ2~3尺の板を上端を室外側に傾けて置きます。これは蔵に鼠を侵入させないためのもので鼠返しと呼んでいます。
戸前の口廻りの段を『掛子(かけご)』と呼び、その段数はその戸前の格付けとなるものです。仕上げが掛子の段数とそれに伴う塗り厚によって変化します。口廻り仕上げは、本三重の掛子四段塗りを基本として、格上が五重の掛子塗り、格下が掛子三段の並三重、2段、1段の掛子塗りもあります。
さらに窓の戸は、片開きもあります。観音扉でない、引き戸となる大阪戸と呼ばれるものも存在します。口廻り仕上げの格付けは、掛子の段数の仕様で決定されます。
土蔵の出入口は、戸前口と呼ばれます。ここには外側から、観音扉、裏白戸、網戸の三種の戸が存在します。ときには、観音扉だけとして、裏白戸、網戸が省略されることもあります。観音扉の一枚の大きさは、幅3.5尺、高さ6尺を常寸とし、扉の厚さ寸法は、大壁の厚さ寸法とほぼ同じとなります。
裏白戸は厚板張りの引戸の外側を白漆喰塗としたものです。裏白戸は、平常時にも開放にしておく場合と、閉められている場合とがあります。
網戸はもっとも内部にある引戸であります。下半分を板張り、上半分を鉄格子や木格子として銅網張りとします。。銅網は鼠返しのためでもあります。
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