左官一服噺 材料○リソイド(lithoid tuff )74
リソイドとは、昭和戦前に行われた仕上げの一種で、満州鉄道(株)の製品でした。マグネシアセメントを主成分とし、リシンに似ている外壁材料で粗面仕上げが適しており、着色も自由であります。リソイドはどこか、哀愁帯びた名称でノスタルジックを感じます。語源としてリソイドは、タラバ蟹の甲羅の色をロシア語でリソイドといい、仕上げた色調や形状が、甲羅に似ていることとされています。
リソイド仕上げの材料は、南満州鉱業株式会社の製品である「マグネシアセメント」を主材として精製されています。粒径に不揃いで、それに伴い種類が多くありました。リソイド仕上げは、日数がかさむことで、水硬性石灰のマグネシアセメントの特徴とする、ポゾラン反応で硬化強度が増します。
リソイド仕上げは、リシン仕上げ同様に高級感があり、江戸川・青山同潤会アパートメントで使用されていたことを確認しております。
リソイドの材料は、満州鉄道(株)の岡大路によって、輸入されていました。岡大路は東京帝国大学工学部建築学科を卒業し、満鉄に入社、南満州工業専門学校の教授を経て校長まで務め、後に満州国建築局長となった人です。
これを我が国に紹介したのが、戦前活躍した日本スタッコの福岡さんだと思います。リソイドは葛生でドロマイトプラスターが開発される迄、同潤会や看板建築で盛んに使用されました。葛生でドロマイトプラスターが開発されたのは、大陸の戦況が怪しくなり、関東軍の交通手段が困難となって、マグネシアセメントを中心とするリソイド等が輸入されなくなったことも影響しているかもしれません。
葛生のドロマイトプラスターはその後、内外壁に使用され、全盛期を迎えます。左官材料は、現在の自然素材同様に時代の流れに影響されつつ変遷を経ています。リソイドの仕上げ方法や材料に関しては、別の機会とします。
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