左官一服噺 工法○水合わせ(water alignment )30
壁土の水合わせとは、壁土に苆(すさ)を加え、塗付けを行うまで湿潤状態を保ったまま保存しておくことをいい、その期間を水合わせ期問といいます。水合わせ期間が長いほど、苆の腐敗・発酵が進行し、藁の周辺部が分解して芯だけが残り、壁土の粘性・強さが増して塗り易くなります。このような効果を期待する場合、苆の腐敗・発酵が活発になる夏場でも1ヶ月程度が必要であるといわれています。この間、時々練り返しを行い、適宜、藁苆および水を補充して、常に施工できる程度の軟度に保っておきます。
苆が水や壁土と馴染むことによる鏝塗り作業性の向上が期待できます。また、強制練りミキサ-を用いて1~2時間の練り混ぜを行えば、藁の周辺部が摩滅・除去されるため、作業性が向上します。
新土のみ使用の場合には、水合わせ後1~2週間ごとに切り返しを行い6~7ヶ月後に使用します。初回の水合わせの切り苆が腐食し、原型がとどめないまで切り返し、土をならしたものがよく、使用の際には、土を荒苆と水とを足踏みによって十分に練り、小口より鍬で切り返し、藁を補給します。
水合わせ原理は土中に水が張られた状態では酸素の流通はできず、還元の状態になります。そのため微生物は嫌気性の微生物が増殖して土をアルカリ性に変えます。アルカリ性の土は金属イオンの土粒子への吸着が電気化学的に安定します。
土中の微生物には、細菌、放線菌、糸状菌、そう類、原生動物などがあります。このうちの細菌には、酸素が多いときによく生育し繁殖するものと、逆に、酸素の少ないときによく生育し繁殖するものとの区別があり、その後者を嫌気性細菌または嫌気性菌といいます。
なお、前者は好気性細菌といわれ、古い土蔵の壁土に含まれていた細菌やバクテイアは休止状態にあったのが、新しい土や藁を混ぜ合わせて水合わせを行うと養分と刺激によって一斉に活動を開始します。水合わせ期間は各地・土壌によってことなりますが、基準的にはPH濃度の又はアルカリ度の測定によって、水合わせ期間の特定できます。よって、水合わせは、古土と新土を半々程度に混合して、水と藁苆を混入して定期的に撹拌することが良いとされます。新土のみであると乾燥収縮が材令1年で11%に達しますが、古土では8%程度に収まります。
古壁を用いると乾燥収縮が少なく、水合わせをすることで土壁の強度は増すことが、古くから、言い伝えられていることがうなずけます。
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