左官一服噺  用語○鏝動作に関わる左官用語2(Temporary term of movement of the trowel )114

前回の続きです。

外構の漆喰仕上げ

・「太陽を背にして塗れ」:当初、筆者はこの言葉の解釈を「鏝むらを確認しながら塗れ」と、いう教えで あると考えていました。しかし、「鏝むら」で あったのであれば、先に述べた、横から の光の方がよく判明できます。よって、これは鏝むらを含めた、むしろ、照明設備が充分に行き渡っていない時代の口伝と推測できます。照明設備が充分でない時代、特に内壁では、暗く、太陽の光が唯一の光源となり、一番頼りになる明るさを得られます。太陽を背にした作業順序であれば、絶えず手元が明るいことによって、塗り作業に支障をきたさず、塗り残し等を未然に防げます。
また、作業中に時々、横に眼をかざして塗り面を見れば、鏝むらはその都度、確認できます。作業場には、「いつもきれいに明るいところでする。」と、いうことは、現在も同様であります。

・「なで鏝はまっすぐ通せ」・「鏝目は通せ」:上塗り作業工程で仕上げ鏝によって押 さえ作業をしていくと、鏝の肩の部分に鏝圧によって引き起こされるブリージングによるノロが浮いてきます。これが結果 的には鏝の継ぎ目であり、「鏝目」として完成後も壁面に表れますが、これは決して鏝むらではなく、また不具合の凹凸ではありません。昭和戦後のドロマイトプラスター 塗り仕上げは、鏝目と、押さえ鏝によって発生する光沢を消すために、プラスター刷毛でノロ掛けをしています。それ故に、 鏝目を美しく見せるためには、鏝を水平 にまっすぐ引き通しておかないと、仕上 げ面が醜くなります。

・「性根が曲がっているから鏝も曲がる のだ」:現場で、先輩諸氏に上記のように叱咤 された経験があります。三間も四間もあるような大壁面を鏝通しすることは困難でありますが、そうでない限り、鏝目を通すためには定木や水糸を使用していました。
かつて、現在の様に薄塗り工法が一般的でない時代には、セメントモルタルで塗装下地である、いわゆる「ペンキ下地」の仕事が多くありました。その際、最終の鏝作業は縦 方向か、横方向かという議論を交わした ことがあった。体験的には、縦方向が塗装下地には向いているように思えました。一般的に照明は上方より照らされることが多いことで、鏝目を少しでも解消させるには、鏝の横の線より、縦の線の方が光線の当たり方として良好になり、さらに塗装の刷毛目は縦方向となることによります。
塗装の下地は縦方向とすることができますが、しかし、左官仕上げの基本で鏝の最終操作は、横方向であり、上塗り材料の塗り付けも横に塗り広げることを原則としています。
大津仕上げで「づぼ大津」 は、鏝目間隔が一定にするものであります。

・「塗り付けは小さい鏝をつかえ」:これは、二つ言いまわしがあり、一方は貴重な塗り付け材料を少なくするための理由と、もう一方は鏝圧を充分かけて下地界面と接着をよくする理由であります。材料価格が現在と違って、工賃より高い時代には、いかに材料費を少なくするかが経営基盤を保つ上で重要でありました。小さい鏝の塗り付けは、大きい鏝と比較して、材料を多く使用しなくても仕上げられます。
江戸時代に元首鏝しか存在しなかった理由の一つには、鏝の製造の技術的なこともありましたが、材料を必要以上に使用しない元首鏝で仕上げる技術を求められていたことも推測できます。

・「七寸の鏝を三寸にしか使えないヘタより五寸を鏝いっぱいに使え」:小さい鏝で塗り付ければ、鏝の塗表面積は小さく、同じ力で塗れば、鏝圧は当然、大きくなります。未熟な左官技術者が無理に大きな鏝で、能率よく塗った壁が、剥離を発生させたとよく耳にしたものです。
「昔から上手い男は大ゴテは使わない」逆に「上手い職人でも、よく剥がすことがある」ともいわれ、これは、先の「塗り付けは、小さい鏝をつかえ」に関連するものです。年期の入った左官職人は、 塗り付け作業にあまり力を入れず、能率的に作業をこなすことで下地界面に鏝押さえの鏝圧が充分加えられず、接着不良となることもあります。
コンクリートとモルタルのように異種材料で構成される界面を、充分に接着させるには押し付ける鏝圧力が必要で、見習い職人が力を入れて小さな鏝で塗った方が、後日の不具合の発生が防げることもあります。

・「鏝先だけ減っている職人は使うな」 (鏝は均一に減らせ);左官職人にとって、鏝は魂そのものであったことは、先に述べています。 鏝を見て、親方はその職人の仕事ぶりや、 どのような教育をされたか推測できた。 西行や職人の移動が多い時代で、親方が その職人を雇い入れる基準とするのは鏝 道具であった。職人にどのくらい器量が あるのか、目利きをきかすのは、親方に とって重要な能力の一つでもありました。
鏝は概して鏝先部分の消耗が多いものですが、バランスを失った鏝は修正して、小さく なるまで使ってやるのが鏝への餞(はなむけ)となります。

・「付けて落とせ」:セメントの使われ始めた時代の口伝であります。当時、混和材が充分活用されて いなかったので、セメントモルタルに粘性がなく、それまでの漆喰や土物のように塗り広げることができませんでした。そこで小さな鏝で、塗り付けながら高いところは摺り落とすようにしました。削り落として仕上げるのは、我が国に存在せず、元来ヨーロッパの左官手法の一つであります。これは下地に大きく影響していて、ヨーロッパの下地は石造、れんが多く下地に水打ちして保水作用を得られます。そこに石灰モルタルを鏝 で塗り付けるというより、はき付けて塗り、高いところは削り落とすという作業工程でありました。
日本では真壁で土を素材にしているため水打ち作業が行えず、材料に保水効果を持たせ、塗り重ねる工法を行ってきました。明治以降、外来工法を取り入れることで、「掻き落とし」という、日本ではあまり使われなかった技術が発生することになります。その後、大正・昭和初期にかけては「リシンの掻き落とし」が全盛を迎えることになります。

・「手先で塗らず、腕と腰で塗れ」:  鏝操作の基本で要するに体全体を使っ て塗ることの口伝であり、更に伊豆長 八に至っては「鏝に心を入れろ鏝になれ」 と精神性をも加えている。塗り作業の体 勢は、腰を中心に安定した状態が望まし い。塗壁面と体全体の間隔は、個人差も あるがおおよそ450 ㎜から500 ㎜の間隔 に保つようにする。足下は軽く開いて腰 をすえ、安定した姿勢として、重おもみをかけ、力を入れて、腰を伸ばしつつ、押し上げて作業を行います。塗壁面と鏝の角度は、最初、塗壁面にあてたときは大きいが、 鏝を壁面に下から上に塗り伸ばすに従い、小さくなります。塗りじまいは、鏝尻で押さえ上げるようにして行います。力の配分といえる手加減は、塗付け時点で力を入れ、塗り伸ばすに従って序々に力を抜いていくようにします。基本動作は、修練に よって身につけるものでもあります。

・「職人一人に馬鹿十人」:左官の体の動き方は大工と比べて大きく、はたから見て見栄えのするものであり、名人の「鏝の動き」は妙技とります。「職人一人に馬鹿十人」とは、塗っている様を大勢の人が、感心しながら立ち止まって見学していることをいっているのであります。

・「車塗りをするな(弧を描くように塗るな)」:鏝目は絶えず水平でなければならず、 湾曲した鏝目では「仕事に身が入ってい ない」と見られます。特に土間モルタル仕上げでは、それが如実に表れるので注意しなければなりません。

・「材料を落とすな」:材料を大事にすることと、仕事場を汚さず、見苦しくしない様をいったものであります。「落とした材料はすぐ拾え、そうすれば使える。」と後が続いています。仕事は手早く、小ぎれいでなくてはならない。名 人・上手と云われる人の中には、白足袋を履いて、全く汚さずその日の作業を終らせて、さっと帰っていく颯爽(さっそう)たる職人がいたといわれています。現在でも、どこかにそのような素晴らしい人がいるか もしれません。

・「むらを取るには甘い鏝を使え」:これは、「塗り付け・むら取りはあまい地金 鏝、押さえ・仕上げには硬い焼入れた鏝を使え。」でもあります。

・「下地が弱い所には塗るな」:剛性の少ない下地に剛性の強いものを塗ると、界面剥離を起こします。この状態をよく「材料が引っ張って剥がれた」ともいいます。左官の基本といえる「材料は仕上げ につれて強度を小さくしていく。」ともとれます。

杉並の左官です。塗り替え、リフォームお待ちしています。電話03-3398-4335 http://s-kent.jp/contact/

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