左官一服噺  材料○天然糊-1(natural glue-1)107

今日、合成高分子系接着剤が主流であるが、ごく一部の用途として天然高分子系接着剤のよさもあります。天然系高分子樹脂は、各種天然物から抽出、精製し、場合によっては変性させた化合物を高分子樹脂として使用するものです。

○膠(にかわ)
伊豆長八は、頻繁に、にかわを使用していました。にかわは言葉どおり「煮皮(にかわ)」で、動物の皮を煮て抽出した蛋白質の液体を固めたものです。
一貫目で3000本になった棒状の三千本膠は有名です。使用方法は、その膠を冷水に重量比で10分の1を12時間以上浸して、寒天状に柔らかくさせます。加熱器の上に鍋に水をはり、柔らかくなった膠を別容器にとり、お酒の燗をする要領で、60℃~70℃以下で湯煎します。
80℃以上に加熱すると、分解し接着効果が減少します。膠は温度低下とともに分散媒体が水のものゾルからが分散媒体がゼリー状に固化ゲルとなります。
このゾル、ゲルは温度によって可逆的であるため可使時間は温度によって調節できます。従って使い残した膠は温度低下とともにゲル化するために再度湯煎する必要があります。

夏場は特に腐敗しやすく、一度腐敗した膠は悪臭を放ち接着効果を失います。伊豆長八は杉板下地に漆喰を塗る場合は、加熱して液状化した膠に胡粉や大理石の微粉を混入して下地面に塗り込んでいます。下地木材、特に杉材は繊維に含まれるリグニンが漆喰のアルカリによって溶解される茶褐色の抽出液によって、漆喰表面を変色させます。それを塗り込むことによって、変色を防止し下地表面を中性化しシーラー的な役目を果たしています。
下塗りの漆喰表面の変色防止には、現在で合成樹脂アクリルエマルションが広く使用されていますが、それがない時代では、膠が紀元前からの蛋白質のバインダーとして重要な役目を果たしてきていました。長八は膠を糊としての目的とシーラー的な目的の両方の効果を期待していたと思います。

三千本膠

○ゼラチン
 ゼラチンは、にかわよりも粘着性が少なく精製度が高いものです。製造方法は動物の骨皮等に含まれるコラーゲンから得られます。骨を酸で処理し、次に110~120℃で水と煮沸し、その溶液を蒸発すると硬い透明質になります。アルコール、エーテルおよび冷水には溶けませんが、温水に溶解して冷却すると、ゼリー状になります。
左官用として、石膏プラスターには遅緩剤となります。また、膠着力あって、砂壁の補強として混和します。

○でんぶんのり

 でんぷんのりは、水中ででんぶんをかくはんしながら60℃ほどに熱すると糊化します。米から得られる姫糊(ひめのり)は、戦国期前まで海藻糊がない時代に漆喰に混入されていたといわれています。少し前まで洗濯物の糊付けや、角又の糊着力の増量にも使用されていました。小麦粉からの正麩糊(しょうふのり)は、襖や明障子などの紙張りに使用されます。トウモロコシから取り出されたものを特にコーンスターチと呼んでいるものが、自然素材の糊として既調合材料に使用されています。
 一般にでんぶんのりは、安価でありますが、耐水性に乏しく、接着性も低い水溶性です。
施工に際しては、可使時間が長くとれ、オープンタイムもかなりの幅を示すので、壁紙などの内装仕上げ用に広くしようされています。現在では防腐、防ばい(かび)剤、界面活性剤を添加し、その性能を長期間確保できるように工夫してあります。吸収性がない塩化ビニル系クロスの場合は、接着性を高めるために酢酸ビニルエマルションとしょうふのりの3:7~5:5の割合に調合したのりが多く使われています。この場合しょうふのりの割合が少ないほど固化速度も速くなり、オープンタイムが短くなります。

杉並の左官です。塗り替え、リフォームお待ちしています。電話03-3398-4335 http://s-kent.jp/contact/

 

 

 

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