左官一服噺  材料○聚楽(じゅらく)(jyuraku)79

遠山記念館の茶室

遠山記念館の茶室

大河ドラマ真田丸で聚楽第の場面が出てきています。「『じゅらく』という土壁は、秀吉が建築した『聚楽第』で使用したので、この名称になったのか?」と、いう質問をよく受けます。その件に関して、書き留めてみました。

まず、『じゅらく』と『聚楽第』の関係ですが、結論から記載しますが、『じゅらく』と『聚楽第』とは関係がありますが、『聚楽第』で使用されたから、この名称になった訳ではありません。

では、『じゅらく』とは?、という問に関して、日左連発刊の「左官事典」によりますと、「じゅらくかべ【聚楽壁】土壁の名称の一つ。京都の聚楽第付近に産する土を、壁仕上げに使用したもの。」とあり、更に「じゅらくつち【聚楽土】色土の一種。色が淡栗灰・灰褐色で、産地が京都伏見地方で、大徳寺王林院で使用された。聚楽第付近より産出したことにより、この名の由来。鉄分が多く経年に従い、独特の詫・錆の風合い出す。」とあります。

じゅらく』とは、地名である聚楽第付近に産する色土の一種です。

また、聚楽第に関しては、wikipedia によると、「聚楽第(じゅらくてい、じゅらくだい、じゅらくやしきは、安土桃山時代、山城国京都の「内野(うちの)」(平安京の大内裏跡、現在の京都府京都市上京区)に豊臣秀吉が建てた政庁・邸宅・城郭。竣工後8 年で取り壊されたため、不明な点が多い。」とあります。

もう少し「じゅらく」について述べます。これからが、左官職人として、述べたいとこ

ろです。「聚楽土」は、色土(いろつち)です。色土は、先の左官事典によると、「いろつち【色土】色のついた粘土の一種。色彩のある粘土で京土が有名である。水捏ね仕上げなどの上塗りに使用。粘土質で色彩を帯びているのが特徴。顔料としてモルタルや漆喰、プラスターに入れることで洋風の壁にも使用できる。聚楽土、浅黄土、稲荷山土、大阪土、京白土、鹿沼土などがある。」としています。

ここで、「じゅらく」に関する左官工法について、整理します。左官仕上げで、「関西は『土物仕上』、関東は『漆喰仕上げ』が主流」、と昭和戦前までいわれていました。関西は、色調豊かで、粘りのある色土が多く産出していました。聚楽土もその一つで、特に聚楽土は、京都の旦那衆に好まれ京壁の王様的存在となりました。そのため、需要が多く、取り尽くしてしまいました。

聚楽土の地層が減少したため、同じような色調で、鉄分がある、大阪天王寺周辺から産出できる「大阪土(おおさかつち)」が、聚楽土に取って変わります。これら鉄分の多い色土は、「天王寺土(てんのうじつち)」、「大阪土」ともいい、京都産が「大亀谷土(おおかめやつち)」、「京錆土(きょうさびつち)」、とも呼ばれ利用されました。このように様々な土の名称がありますが、それだけ京都は、利休以来、土物仕上げにこだわりをもってきた証といえます。

色土の聚楽土や錆土は、経年で酸化され独特の色調となり、茶室に、好んで使用されています。色調の変化として、天王寺土を使用した遠山記念館の茶室の壁を添付いたします。貫伏せ部分が、空気の流通が悪く、色の変化が見られません。左官は、後年、色調が変化することを推測して、デザイン性を加味して壁を塗る必要があります。このように左官仕上げは、現在の建築構法のように仕上った時が、終わりではなく、京壁や漆喰仕上げのように、経年変化を楽しむところがあります。

先ほど、土物が関西、漆喰が関東(特に江戸)と述べました。関東は、ローム層で、土が左官用には適さないため、葛生の粉石灰、東京湾の貝灰で、漆喰工法の技術・デザインが大いに発展してきました。

ところが、昭和期の戦争で、石灰を焼く燃料不足となり、致し方なく、関西の土物で仕上げとするようになりました。関東の左官は、漆喰の粘りのある材料に慣れていたため、京都でいう、西京壁(さいきょうかべ)という粘りのない「水捏ね土物」が、関東の左官職人の「手」に合いませんでした。そこで、「水捏ね土物」でなく、角又糊を混入した、「糊ごね土物」が関東の主流となりました。

戦争が終わり、木造住宅がどんどんと建てられるようになります。今までの、小舞土壁から石膏ラスボード+石膏プラスター工法で、早く・安くに変化していきました。そして、戦後の「東京復興(とうきょうふっこう)」をかけた「東京福幸」という会社が、「京聚楽(きょうじゅらく)」という、色土、顔料、木材チップ、苆、糊を混入した既調合材料を販売します。これは、繊維壁と同様にたちまち、戦後の左官材料の一役を担うことになります。

この「京聚楽」が「じゅらく」・「きょうかべ」として有名になり、和室壁の代表的名詞となります。時代が進み、既調合材料の色調も豊かになり、更に他社の製品も加わり、「本聚楽」、「黄聚楽」、「白聚楽」と選択することにも、迷うように多種・多様となっていきます。しかし、現在では、和室が減少し、和室の壁があってもクロス貼りという情けない状況にあり、材料メーカーの生産中止をするところもでてきました。

左官仕上げの復権を望みたいところです。

img002-1杉並の左官です。塗り替え、リフォームお待ちしています。電話03-3398-4335    http://s-kent.jp/contact/

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